裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 12A
第12話【
戦士の休息
】Aパート
あれから数週間後の土曜日……
「渚です」
僕は乾いた音のするドアを叩きながら言った。
「あ、はーい」中からローラちゃんの声が聞こえたので、僕は扉を開いた。
「どうですか 具合の方は」
僕は花束をローラちゃんに手渡して、ローラちゃんの母親が寝ている病室のベッドの側の丸椅子に腰かけた。
「シンイチさん……何から何までお世話になりまして……」
「そんな……あの……気にしないで下さい」
「今日はアヤさんの学校の学園祭でしたわね ローラ 行ってらっしゃい」ベッドの脇に控えているローラちゃんに微笑みを浮かべて言った。
「それじゃ、行ってくるね」ローラちゃんは僕の側まで歩いて来て、そっと手を出した。
「エスコートしますよ お嬢様」僕はローラちゃんの手を取って歩き出した。
僕は冗談めかして言ったが、後にドイツでは従者や執事がおり、日常的にそのような会話が行われている事を知り、驚いた。
「それじゃ、失礼します お大事に」僕は病室のドアを閉めた。
「ご苦労様です」少し離れた場所から、ローラちゃんの母親を警護している男たちに僕は声をかけた。
他に人気もまばらな、NERVの病院の中を僕はローラちゃんと歩いていた。
「だいぶ、顔色が良くなってるみたいだね」
「うん……ミドリお姉ちゃんや、みんなのおかげ……」
「ミドリさん……晴れ晴れとした顔してたね……」
光が溢れる表に出て、眩しさのあまり目を細めながら、数週間前に駅で別れた時の事を僕は思い出した。
「私だって……ママに嫌われたら一日だって生きていけないもん……」
「ミライが待ってるから、ちょっと走ろうか?」
「うん!」
僕はローラちゃんの走る速度に合わせて駆け出した。
「お待たせ」学校へと向かう坂道で、電柱に背中を預けて待っていたミライに声をかけた。
「じゃ、行こうか」
「アネキのクラスの出し物 何だっけ」
「喫茶店だったと思うけど」
「定番ねぇ」
「ミックスジュースとかあるって言ってたよ ローラちゃん」
「ホント?」
「ケーキとかもあるみたいだから……」
「わぁい 早く行こうよ」ローラちゃんは久しぶりに年齢相応の無邪気な笑みを浮かべた。
ローラちゃんは今にも駆け出すかのように、飛び跳ねていた。
僕達は坂道を上がって、中等部を通り過ぎ、高等部の校庭にたどり着いた。
「はーい タコ焼きいかがっすかぁ 3A名物 第二明石風のタコヤキだよぉ」
「1C名物のバナナクレープだよぉ」
「相変わらず食べ物の出し物が多いわねぇ」ミライはあちこちから立ち上る煙を見ながら呟いた。
「美味しそう……」ローラちゃんは、物珍しそうにタコ焼きの屋台を見ていた。
「ローラちゃん 食べてみる?」
「ウン!」
「ミライは?」
「去年も美味しかったし貰おうかな」
「すみません 第二明石焼き三つ下さい」
「はいっ 1200YENになります」
「汁が多いので、気を付けて下さいね」
「はい、ローラちゃん」
「ありがとぉ」ローラちゃんは受けとった熱々の明石焼きのパックを持って微笑んだ。
「じゃ、取り敢えずアヤさんの所に行こうか ここじゃ人が多いからそこで食べさせて貰おうよ」
「そうね」
「凄い人ね……」中央の玄関には人がわだかまっており、とても進めそうに無かった。
「西の隅の方にも玄関あるよね そっちから入ろうか?」
「そうねぇ……」
僕達は人込みの中を抜け出して、別の玄関に向かった。
「こっちはガラガラねぇ」
「そうだね なんでこっちはこんなに空いてるんだろう」
旧校舎への渡り廊下の側の小さい玄関から僕達は中に入っていった。
「小さいスリッパ無いなぁ……大丈夫?ローラちゃん」
「うん!」ローラちゃんは大人用の大きい来客用スリッパをぱたぱたさせて歩いていた。
「二階だから、この階段を上がろうか」
僕達は階段を上がり、二階の廊下の角を曲がった先に、
髪の毛を染めた不良のような二人の生徒が廊下の左右に並んでうずくまっていた。
(大丈夫……無視して通ろう) 僕は二人に思念を飛ばして、何気なく二人の不良の間を通っていった。
二人の生徒が僕達をちらっと見たものの、僕とミライは難なく通り過ぎた。
「あっ」ローラちゃんが何かにけつまづいて、廊下に倒れ込んだ。
手にしていた汁沢山の明石焼きは右側に座っていた生徒の太ももにぶちまけられた。
「あ、熱ちちち」
「大丈夫ですか?すみません」僕は慌ててポケットからハンカチを出して、その生徒の太ももを拭いた。
「このガキ……何やってんだよ こいつに恨みでもあるのかよ」
もう一人の生徒が立ち上がり、転んだローラちゃんの首筋を掴んで、引き摺り上げた。
「ちょっと!こんな小さい子供に何するんですか!」ミライは激昂してにじり寄った。
「俺の連れが酷い目にあったんだ……当然だろ?」
「子供がやった事じゃ無いですか!謝りますから離して下さい。」
「おねえちゃん……足にひっかかったの……私……悪く無いもん」
「まさか、子供に足をかけたんですか!」
「さぁ 俺は知らんよ hehehe」その生徒はふてぶてしく笑った。
「ちくしょう!」太ももに明石焼きがかかった生徒は立ち上がって、明石焼きを靴で踏みつぶした。
「あっ! おにいちゃんに買って貰ったのに……」ローラは涙に潤んだ目で踏みにじられる明石焼きを見ていた。
「ちょっと!わざとひっかけたんなら、あなた達のせいでしょう!」僕は真実を知り、もう一人の方に詰め寄った。
「だったら、どうするんだよ え?」
「おまえは引っ込んでな」太ももを濡らした男が背後から僕を羽交い締めにした。
「この手を離して貰いたいか」もう一人の男はローラちゃんの服の首筋を掴んだまま、空いていた窓から腕を突き出した。
「嫌っ」ローラは真下に見える中庭を見て引きつッた。
二階とは言え、背の低いローラにとってはそれ以上に恐怖を感じたであろう。
「卑怯者!シンイチとローラを離しなさいよ」
「許して欲しかったらな、今ここでその服を脱げよ こっちの通路は誰も使わないんだよ おれたちがいつもタムロってるかんな」
「止めろ!許さないぞ!」僕は羽交い締めにされたまま叫んだ。
「ははぁナイト気どりの中坊か お笑いだぜ」空いている左手で僕の頬を殴りつけて来たが、羽交い締めにされてるので避けられなかった。
「え?どうするんだよ! 自分で脱げないなら脱がしてやろうか……」
ポケットから左手で折り畳みナイフを取り出し、ミライの服の胸元ににナイフを充てた。
「ガキっぽい顔の割りにはいい身体してそうだぜ」男はそっとナイフを降ろしていった。
「へっ白いブラジャーか……色気がねぇな まぁ中坊なら仕方無いか」
臍の辺りまでミライの私服を切り裂いた頃、ローらの叫び声が聞こえた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんを離せ!」ローラは首根っこを捕まれたままじたばたしていた。
「おい、暴れるな!落ちても知らんぞ」
「許さない……お兄ちゃんとお姉ちゃんを苛める人は……」ローラの目が紅く輝いた途端、窓ガラスがカタカタと揺れはじめた。
「駄目よ 下手したら、落ちちゃうわよ!」ミライは慌ててローラに声をかけた。
「んー?こんなガキに何が出来るってんだ 糞莫迦が」
その男は、窓の外を見て背筋を凍らせた。
中庭に落ちていた石ころと思われる物体が大量に二階の窓まで浮きあがっていたからであった。
「止めろ!」僕は羽交い締めしている男が窓を見て硬直している隙に、背後に頭突きをかました。
「ぐあっ」羽交い締めにしていた男は僕の頭突きで鼻血を吹き出しながら背後に倒れた。
「そいつらから手を引け!」その時、廊下の向こうから低い声が聞こえた。
「ん?なんだ?二年の葦田(あした)じゃねぇか……」
「あなたは……たしか……」僕は突然現れたその人に見覚えがあったような気がして動きが止まった。
「手を引かないと……おまえらの情報……先行にチクルぜ それとも掲示板に張ってやろうか」
突然現れた謎の男は数枚の写真を見せつけた。
「どうなんだよ センパイ」その人は足元に写真をばらまいた。
足元に落ちた写真には、不良二人が煙草を吸っている写真や、悪事の限りが写されていた。
「あんたら、もう三年だろ? そろそろ卒業したらどうですか? 今の時期にこれはまずいんじゃ無いですか……」
「わ、解った」不良風の男は慌ててローラを窓の中へと戻して来た。
「お、おい……行くぞ」鼻血を出している男を連れて、二人の不良はそそくさと去っていった。
「あんたは、こないだの広島弁男!」ミライは胸元を隠しながら突然現れた男に向かって叫んだ。
「見覚えがあると思った……あ、助けてくれてありがとうございました」僕は頭を下げた。
「ま、あんたらの親父さんには世話になってるからな じゃぁな」葦田と呼ばれた男は笑みを浮かべていった。
さっきのごたごたで僕らが持っていた明石焼きは全て足元に落ちていた。
「せっかく買って貰ったのに……」ローラは未練たらしく明石焼きだったものを見ていた。
「僕が買って来るから、先に行っててよ」
僕は薄手の上着をミライに着せかけて、背を向けた。
「じゃ、私はここを片づけておくから」
「それじゃ、アヤさんの所で」
「僕は自分の力で……愛する人を助けたい……」
僕は階段を降りながら、自分の非力さを噛み締めていた。
{その気になったか……}
{{兄さん……どうしてさっき助けてくれなかったの?}}
{あいつがおまえらをガードしてるのを知ってたからな……}
{その気になったのなら修行してみるか?お前の潜在能力を開発してやろう……だが危険はつきまとうぞ……}
{{それでもいい……僕自身の力が欲しいんだ}}
{そうか……解った}
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どうもありがとうございました!
A案とB案は同率首位でしたので、折衷案にする予定です(^^;
第12話Aパート 終わり
第12話Bパート
に続く!
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